掌編小説集

630.サンセットフルール

病気だったり事故だったり
もう少し生きたかっただろうなとか
頑張りたかっただろうなとか
思ったりするけれど

悩んでいたり困っていたりしていたら
心は誰にも覗けないから事情があるなら話して欲しかったし
話を聞いてあげればよかったなとか後悔するだろうけれど

はっきりとそういう顔を見たわけじゃないし
思い当たる節もからっきし無くて
解読なんて出来ないし見破れもしなくて
まるで雲を掴むようで

きちんと周りに事情を聞くよりも
変に聞きかじったことをそう考えた方が嘘でも真実より分かりやすいから
面白おかしく噂をして下世話な憶測の暴露記事が蔓延する

理由が分からないから
なんで?
っていう疑問しか浮かんでこない

良い思い出があるからこそそれらの記憶を持っているのが悲しくなるけれど
忘れたくないの覚えていたいの
幸せな記憶が結び付けるのが最終的に不幸な記憶だとしても
君への疑問が私を責めて乗らされた船旅は悲しさの海を漕がされる
罪は無くだから罰も無く
円滑に回り続ける思い出と現実のトレード
謎が砕け散って笑顔は置き忘れたまま手掛かりが絶たれる

こんな形で終わらせるべきではないのに
もう居ないんだもう会えないんだ
歩むはずだった未来の計画を壊された怒りは全く解けてはいない
現時点では何も言えないけれど

もしかしたら本人もなんでこんなことをしてしまって
こんなことになってしまったのだろうと
思っているのかもしれないけれど

やっと笑って話せるようにはなったけれど
一つだけ決めたことがある

今度逢ったら殴る
まず一発殴る
当然グーで殴る
ご無沙汰しておりますと挨拶する前に殴る
漫画みたいに顔の形が変わるぐらい殴る

お供の骨酒と積もる話はそれからだ
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