掌編小説集

638.純粋な嫉妬と純真な焼きもち

遅いから様子を見に来たとか迎えに来たとか挨拶のハグとか言われて納得してしまう
やましい気持ちが見え透いて下心が見え見えなのに
人懐っこい外面で小憎らしいその笑顔が彼女の空間に密接‐フェードイン‐

仕事していたら忘れられる気がして根詰めてしまって
イラッとした八つ当たりをしてしまって
冷めた物言いに籠もった怒りを感じさせてしまって
私の事を避けていましたよね?私の事を嫌いになりましたか?と悩ませてしまって
自分が何かしたから怒っていると勘違いさせてしまって

けれど俺の言葉を信じて欲しいという言葉を信じてくれて
原因が分かってホッとして腕を掴んでいた彼女の手から力が抜けた
不機嫌が割とダダ漏れだったことに気付いて焦るのは結構すぐの話

挨拶のハグでも嫌だと言ってすぐに奴に伝えるあたり素直で
心の狭い彼氏だと奴が拗ねたら考えてみれば私も嫌だと思うから私も心が狭いようだと
彼女に言われて奴が実質的に剥奪‐フェードアウト‐するのはまだ少し先の話

彼女が意に介さなくて興味も無い対象には成傷器になり得る
俺はそれになり得ない優越感を抱くあたり俺も結構黒い感情を持っているようだ
気持ちに寄り添い過ぎて優しい人で終わってしまうか多少ぶつかり合っても本音を話せる人か
俺は終わりたくないし本音で話し合いたい
彼女には見せたくないのも本音だけれども
彼女の第一人者だと安牌を気取って失いたくないから
< 638 / 664 >

この作品をシェア

pagetop