掌編小説集

644.重篤な脳内麻薬をアタッシュケースに閉じ込めても向かい風の離岸流で虚脱して応答ナシ

出色の奴と話している時の君は時折とても嬉しそうにはにかんで
喜んでいるようだとそう思ったら焦れったくギリと胸が締め付けられる
君への気持ちに気付いたと同時に君から奴への気持ちも気付いてしまって
奴が君に向ける鼻につく笑顔と君が奴に向けるエーデルなスマイルが
勝利を糧に敗北を踏み台に出来ずに繰り上げ当選でしらばっくれられずに
照れ隠しなんて可愛いものではなくどす黒い永久磁石‐ジャーナル‐として
俺の中に積み重なっていくのを心が折れそうになるからと認めたくない俺自身が居た

随分と仲が良いみたいだなお前にあいつを口説くなとは言わないけれども
自己満足の為に前後不覚に迫って困った事態を引き起こすようなことはするなよ
可愛い後輩が先輩の食い物にされて一悶着なんて事態になるのは避けたいからな
ストロークのイズムを一瞬で表情を取り繕って分かったような口で注意する
しかし奴は単に人当たりが良いだけで興味が無く所謂所詮君の片想いだ
しかしながら無論中長期で再認識する可能性もあり状況的に今のところはだ
奴は肯定の言葉を止めたけれど止めるだけでワンオーダーを否定はしなかった
君が傷付いたことは確実であるから君がそれでも好きなならず者の奴に
両雄並び立たずと苛立ちを感じて嫌いだと感じるのは至極当然だろう

君が何やら周りの様子を見回しコソコソとしているのを見掛けて様子を窺えば
私用の携帯電話の画面を見て薄明光線の如く目を細めて微笑んでいる
背丈差を利用して覗き見すれば奴の隠し撮り写真で悪魔が囁く声が聞こえた気がした
君を呼び出して説明を求めれば俺に伝わっていると知られてしまったと
微塵も思ってもいなかったことが君の反応で図星だと確信を持ったことには
驚愕して気息奄奄に焦っている君には分かりはしないだろう
何にせよ思わせぶりに情報を隠されて気にならない訳がないから
君の為と奴の為となんて免罪符で黙っている代わりにと要求を呑ませる

ファーストインプレッションから余力も含めて本気にさせた君が悪い
君は本当は許可していないけれど本気で止めようともしない
全部バラして関係をナシにするか黙っていて奴の側に居られる現状か
どちらでも選べ誰も幸せにならない真実なんて必要なのかと恩返しを問い
黙っていることを関係を続けることを選ばざるを得ない状況に追い込む
所望するタイミングは俺が握っていて悲しむ姿を見たくないと思う反面
もしバラすのならばどのような反応を示すのか見逃すわけにはいかないとも思う

しかし望むモノを手に入れる為に手合わせする対価は犠牲にしかならない
しかし犠牲を払ったとしても手に入れられるのは望んだモノとは限らない
両思いの奇跡など信じない力ずくでも君の周波数をもぎ取るだけ
嫉妬してイラついて頭にチラついて集中なんて出来ない狂い咲く嫉妬心
全部俺だけの君だったらいいのにという独占欲と自分に言い訳をして蓋をする

衝動に身を任せて刻み込むように君からの好意が無い行為を重ねて結ぶ儀式
愛撫して指で掻き回してピストンの為にぐるんと回せば凄く締まるし
感度が良過ぎてトロンとした顔や目は俺にだけ見せる表情俺にだけっていう特別感
少しは抵抗しろよと思いつつ無理難題も体を許した心も従順な態度の優越感
今この瞬間だけは俺のモノで俺が君を独り占め出来る唯一の時間だから
押し寄せる快感の波に身を任せると更に昂ぶって土壺に嵌まっているのは分かりきっている

悪名が無名に勝ると力に任せた乱暴な戦い方いや同列の戦いにすらなっていない
正攻法では手に入らないし勝つ為の最低条件すら俺には存在しない
勝てないことは最初から分かっていたから邪魔をするしかなかった
繋ぎ止める為には思いがけず握った弱味で脅してでも側に居たかった
見えるところにキスマークを見せ付けるようにして離れたくはなかった
ニアミス効果の不幸に気付かされた幸せにそんな風にしか繋ぎ止める方法がなかった
結婚したいのは何パーセントかそれがそのままその人の点数になるのならば
間違いなく君は俺にとって百パーセントでパーフェクトな無くてはならない存在だ
二人っきりの時はアクセルを踏みっぱなし会社ではサイドブレーキで調整してなんとか保つ
君からハッキリと関係の終わりを告げられたら俺は悩まずに済むのか
いや君が断れないようにして悩むなんて烏滸がましいのは他でもない俺自身で
俺にとっては奴が危険因子だけれども君にとっては俺以外には居ない
優良物件に射幸心ではブローホールでエンストになるのは理に適っている

御茶湯御政道なんて頭脳戦ではなく単純に君と居る時間を増やしたくて
高級レストランに連れて行って食前酒すら君は拒否をするから
君と統一感を持ちたくて俺に恥を掻かす気かと圧の有る含み笑いで飲ませることに成功
完封して良い気分の帰り道酔いが回って気持ち良く自分語りをしていたら
後ろからドサッという結構な音がして振り返ったら君が道路に倒れていた
体には力が入っていなくて顔は真っ白で一旦一回整理しようと言う暇も無く
意識を失った君に狼狽えて名前を何度も呼んでも反応が無いことにも狼狽えてしまった

体調が悪くて解熱剤を飲んでいたのにも関わらず酒を断れなかったから
いや体調に気付かず断る理由すら言わせずに一部の地域のその時代にしか通用しない
局所的に当てはまる俺だけの当然を君に押し付けてしまったからに過ぎない
しかも君は奴が好きでも片想いでもましてや両想いでも何でも無かった
浮気者とかでもなく似た人物なだけで似た様な他人を代わりにと補って
早くに死んでしまった兄を一途に思って似ている奴の姿を兄に重ねて見ていただけ
ただ盗撮であるから知られたくなかったからだから黙っていて欲しかっただけ
冷静に考えられずそんなことにも気付けずに俺は痴情のもつれと勘違い

ベッドで目覚めた君は病院だと説明する前に俺の姿を見て俺と目が合えば
その途端にごめんなさいと謝りながら言わないでと懇願しながらパニック状態
言わない言わないからと言って君を何とか落ち着かせようとするけれども
俺が怖いって全身で表現されれば恐怖の対象である俺に為す術はない
健全なお付き合いの真逆の行動の自動化によって刷り込まれた暴論でこの有様だ

封じ込めた勘違いの事実を解放して君が好きという真実を明らかにしても
君を傷付けるつもりは最初から無かった本当に違うと言ったとしても
今までの信頼が皆無だから信用してもらえないし許してもくれないだろう
君の為にしか生きられないのに君の心を殺すしか俺には能が無くて
拒否されて償えない気持ちは行き場を失くして罪悪感が溜まるだけ
君に届かなくても今以上に胸が痛くなったとしても君を愛し続けたいけれども
君が見付ける人生に泥濘になる俺は居ないどころか俺が存在してはならないだろう
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