掌編小説集

646.蒸発潜熱‐フラッシュオーバー‐

土産屋で君が見ていたキーホルダー
「今日の記念に俺が買いますよ」と言うと
「いえ自分で買います」と返ってきた
「いや俺が買いたいんで」と待ったをかけて
押し問答を始める前にぶった斬って
ペアのキーホルダーを持ってレジへと向かう

会計を済ませてお揃いだと思いながら戻れば
「やっぱり払います」と君が言うものだから
その話には決着がついたのにと戸惑いを隠せない
「私が貴方の分を払えばいいんです」
ポンと手を打つように豆電球がピカッと光るように
その発想力は行動力は直進して閃く
「そうすれば貴方が私に買うことが出来て私が貴方に払うことも出来ます」
好意全開の笑顔での提案が斜め上
「これでバッチリです」
良い案で解決出来たとばかりに笑う君
一言の破壊力が凄まじいことには気付いていない

俺にプレゼントしたいって言っているのと同じ
俺からのプレゼントが嬉しいって言っているのと同じ
お互いにプレゼントを贈り合いたいって言っているのと同じ

フゥと小さく息を吐く
分かっていないよな
っていうか無自覚なだけか
君とのデートに思ったよりもはしゃいでいたのかもしれない
君にそんな反応をされたらますます止まらなくなる
本当に敵わないし勘弁して欲しい
分かってはいたつもりだったけれど我慢出来るかな俺
< 646 / 664 >

この作品をシェア

pagetop