掌編小説集

649.醸成される色の恒常性の系譜など汽水域に書き替えられはしない

あの時ならば受け入れられたと感じていても
あの時から時間が経過したことで
手薬練引いていた気持ちに整理がついた
つけることが出来た今だからこそ言えることであって
あの時だったらあの時であっても
いやあの時だったからこそ受け入れられなかった

話を聞く準備なら出来ているから
試さなくても傍にいるから
二度と離れることなんてないから

君の語る救いがどんなに嬉しくても
今は全くもって違う気持ちで
あの時の心情とも事情とも違うから
今の私にとっては救いでも望みでもない

私の為に腕を磨いてきた君だけれども
その間に私だって成長しているから
その救いを求めて必要だったのは
何でもないから君の声が聞きたかっただけと
歯切れの悪い不安そうな声を出して
突然の電話で君を困らせていた昔の私だから
君にとっての私が昔のまま更新されていない

私自身で選択を積み重ねてきたから
君が居なくても君に頼らなくても
日々の中で得たものがあって
それは私にとって必要な過去だから

あの頃に戻ってもあの頃からやり直しても
私にとっても君にとっても同じにはならないし
望んだような都合の良い結果になるとも限らない
だってこの変化が無ければその記憶が無ければ
君の想いは受け入れられなかったから

しかし変化と記憶があったからこそ
立場的にも状況的にも許されなくなってしまった
君の想いを断りたくはないけれど
受け入れられたとしても受け取ることが出来ない

結局私の想いと君の想いは重なることはなく
残酷にどこの時点でも駄目なことには変わりない
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