掌編小説集

652.極致‐アイコニックハーバリウム‐

声も匂いも体温も何もかも失いたくない

握手をするように差し出された手を掴んだ時から

手を繋ぎたいからと言って離さずに

離れたくないと引き寄せられて抱き締められる

いつかは終わりが来る関係なのだと分かっていた

好きだけではどうにもならない

ゲーム内のチャットで連絡するような

誰にも知られないようにしないといけない

秘めなければならない関係

朝起きたら隣に居ないなんて嫌

眠っている間に黙って帰らないで

そう言えば落ち着かせるように

諦めたように仕方がなさそうに

トントンと優しく背中を叩いてくれる

別々の道を歩み始めディバイドされる

その日までのほんの少しの間だけ

夢のように幸せなこれらの時間を

日がな一日分をこの胸に留めておけたなら

自分だけにくれるこの笑顔を忘れなければ

独りになってもきっと生きて逝ける

そう思ったのにそう思い込みたかったのに

未来の断片をほんのちょっと垣間見ただけで

遣る瀬無さが際限なく込み上げてくるならば

出船の纜を引くように指をくわえたままに

離れ離れになって壊れそうになるならば

怒涛の万歳三唱‐ハンマープライス‐で

強制的に有終の美を飾らされる前に

バージンに手を付けてブレイクスルー

世界の未来からかっさらえばいい
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