掌編小説集

659.ヤミツキのスキにキス

キスしたいからキスしてもいい?って聞いても反応は芳しくない
ムードがとか言う彼はムード以前に間引く様に全然乗り気じゃない
差し当たりに何の脈絡もなく愚図って言っている自覚はあるけれど
ごった返すような場所とかどこでもどんな場所でも言っている訳ではないし
顔を潰すような真似とかそういうTPOを弁える分別はあるけれども
やっぱりキスしたい
けれど聞き分けのない人にはなりたくないしシテる最中ならキスしてくれるから
我慢し過ぎて禁断症状とか澱が溜まってもまるっと無視して一切合切そうしよう

嫌なことを忘れるには酒が一番と聞いてせんべろよりは家なら大丈夫かと思って
結構な種類を用意したらこれまた結構楽しくなって飲み進めていたけれど
回転が速い頭を無駄遣いして段々思考が軟弱な陸でなしに偏ってくる

ムードがとか言う割に風評なイベントごとは嫌いで放免ばかり
お互いに奉公仕事が忙しくてすれ違いでも愁うことなく結構平気そう
好きだと告白してきたけれど態度は今までとあまり変わらない
幼馴染のような私より同僚の元カノの方が通じ合っている気がする

確かに告白された時は驚いた
そういう風に見たことが無かったから
けれど彼はそれでもいいと言って付き合い始めた
お出掛けがデートになって家に行けばお家デートに早変わり
要綱から様変わりした私と違って彼は特に変化が無いように思えてくる

彼は私と居て楽しいのかな?
長年の片想いが実ったみたいだけれど今は私の方が片想いみたい
両親は私を置いて逝ってしまったけれど私が死んだら彼は泣いてくれるのかな?

唐突に答えが知りたくなって彼に電話をすれば
珍しく酔った私が珍しく試すようなことを言えば
どこにいるのかと何故か焦った様子に面白くなって
どこでしょうかとクイズを出して解答を待たずに電話を切った

少し経って乱暴な足音がしたと思ったら彼が家に辿り着く
酔っ払ってケラケラ笑っている私を見て怒るどころか呆れるように安堵して
ソファーからベッドに行こうと私を運ぼうとする彼を拒否して
こんなところで寝たら風邪を引くからと言い聞かせるように
目線を合わせようとしゃがみ込んだ彼へ上に乗っかかるようにして覆い被さる
ちゅーしたいと言うだけ言って返事を待たずに唇を重ねる

彼は自分と私を支える為に尻餅を付き手を付いている状態で
私が顔に手を添えているから逃げるに逃げれなくてされるがままで
体の力が抜けてくるのか段々後ろに押し倒されて肘を付く体勢になる

流石に酸素不足になったのか無理矢理引き剥がされたけれど
呼吸が荒くて顔も赤くして突き上げるように反応していることも
理由が私なことが嬉しくてちょっとだけからかったら
こんなことされたら誰だって反応すると嫌そうに言われてしまった

そっか誰だっていいんだ
私じゃなくてもいいんだと思ったらなんだか悲しくなって
トボトボとベッドへ向かってポスっと不貞腐れるように倒れ込む

いやそういう意味じゃ
私を追って来た彼は慌てるように焦っているようにみえる
いや実際焦っているのだろういやとかあのとか言葉が続かずアタフタしている

キス好きなのか?
彼とキスすればなんだかフワフワするけれど全身温かくなって好きだと答えれば

仲直りだと言って頭を撫でながらキスしてくれる
喧嘩してないけれどもう少し続けた方が盛り上がるかもしれないけれど
彼が拒否せずにたくさんキスしてくれて目を瞑って酔いしれていれば
体も心も満足したのか撫でられる心地良さでいつの間にか眠ってしまっていた

起きれば何故かベッドに居て横には座って壁にもたれて眠り込む彼がいた
何で居るのか分からないけど毛布もかけていなくて風邪を引くと困るから
揺すって起こせば目が合った途端何故か組み敷かれてしまった
記憶が無いことは一旦棚に上げて朝イチから何をしているのと言えば
昨日散々煽っておいてふいにしておあずけをくらったんだからいいだろと
若干怒っているような気が急いているようないじめっ子のような顔で

人の話を聞かない行動の動機に隠された感情をお互いに知らない
知らなくても知れるように知ってもらえるようにすればいいから
査問委員会をちょろまかして人でなしにでんでん太鼓を授ければ
いつか来たら良いなと思っていた通じ合えた日が今日だっただけ
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