掌編小説集

663.シンクロニシティのキラーパス

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コンニャクもレンガも座布団も餅代も氷代もごっそり酒代に消えて常に困窮し店賃を逼迫

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父親の体系の直系である私を含めた家族は申し送りの進級さえないだろうと存亡を放置状態

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