掌編小説集

666.虚空のポンジスキーム

違反の宝庫だった霜降りが氾濫する店が摘発されて保護観察中
生活安全課に属する警察官の口利きで小さな工場で働いている
基盤の基板さえないけれど下宿して見様見真似の空中配線
志は高くともアイドラーは遅くてタコメーターは雀の涙
コンデンサのコンポになるには内包のパーツが足りなさすぎる
赤裸々な情操もパペットのように大袈裟には出来ないけれども
女将の挨拶回りのアシストぐらいは出来るようになった

リーゼントやモヒカンの第一世代が鳴らすチンケなスキール音
高分解能質量分析計のように鼻が効く奴等が取り囲む覆輪目地
何の話と諸説ぶいても俺達が知らないとでもと復元も復原も容易く
私がクスリを扱っている店に居たことを知って後味のつまみ食い
金の無心と販売ルートを吐かせて雇い止めとして利用する為
6秒ルールすら放送禁止と絶交して泣き寝入りで締め出される
協力しないと工場も人も目茶苦茶にするという脅しは火気厳禁
虚仮威しなんかではないことはスパコンでなくとも予見出来るから
間が悪くても解せなくても誰にも何も言わずに工場を離れた

突然行方が分からなくなったから当然生活安全課に入るクレーム
ヒアリングも言葉尻は畜生で国有地売却物件さえテスターシール
堆積して嫌気が差したんだろうからと反旗を翻されたワンオペ
後継が居ないから引き取っただけとざっくばらんな鋸歯も健在
受け入れ先だからとチヤホヤしてもああ言えばこう言う縮流なら
心変わりもせず吹き下ろしの叩き売ったセットバックなら錯誤だったと
自薦も他薦も剥離して科学的根拠が無くとも吹き流しで時代を読む

別動部隊の機動捜査隊も加わってブロックチェーンの捜索の開幕
刑事課の彼はこの逃走劇に焼き増しされたデジャヴを感じていた
売人の一人が野垂れ死ぬように殺害されてその捜査中であり
繋がりが見付かればエーシスを切り崩せるのではないかと息を吹き返す
と同時に漏斗のように狭めてしまう私の心身の状態が気に掛かる
エンカウント状態だったけれどもアクシデントを取っ掛かりに
ヒールだと取り違えられても腹を割って話をして話を聞いて
やっと自分の言いたいことが言えるようになってきたのに
弾力のあるフラッシャーされオピニオンはシュレッダーにかけられる
そんな私を早く見付け出して庇護して心因性を取り除かなければと

クスリを運び屋から受け取ってアジトへ運んでいる最中に
機動捜査隊に見付かって追い掛けられてしまう
クスリという荷物のせいで追い付かれてしまって
クスリの入った鞄を引き合っている内に中身が飛び出してしまう
養殖とは違う本物を受け渡しには持っていかないといけない
小金持ちとは桁が違って逝去も崩御も薨御も薨去も卒去もイジェクター
目指すところはピンぼけしてやり直せないけれど償いは次善
次に活かして身の毛もよだつオフ会からあの人達を守らなければ
プロネーションさえ戻れないからひたすら前に進むしかなくて
身の危険を感じても引き返せないから行くところまで行くしかない
蓋(きぬがさ)さえ振り払って機動捜査隊を振り切った

鞄ごと持っては来れたけれど揉み合った時に数個落としてしまったようで
クスリの個数が合わないと貧乏揺すりはボツの下準備
中古のガイドブックはパワーアップした滑車でツアーを
夢見心地の立ち飲みをスイートルームでフリーズドライ
やむなく動じないのは消し飛ばされた浪人だからか
一夜限りなんて儚いものではないから意識が戻った時には
辛気臭くがっついていた奴等はプリセプターもプリセプティも
注意散漫に消えていてアジトもとい廃倉庫に放置されていた
散乱している服をかき集めれば何とか様になって
道を歩いていても不審者にはならないだろう
クスリの受け渡しの皮算用と警察官を殺す算段をしていた奴等
誰かのインスパイアされたインスピレーションに乗かっているだけで
腕が鳴るとエンターテイメントを動かした気になっている奴等
ユニークな才能を秘めているフリをしてインターンを手抜きして
考え直すこともなく実際の現実はアシスタントに過ぎない
何の気なしにと打ち上げに出掛けている隙にのっぺりと抜け出す

公衆電話を見つけ出して掛ける先は急用の110番
私の名前と彼の名前を告げて設問の手間を省いて電子音
彼は私の話を聞いてくれるからどう伝えたら良いのか余計に難しくて
宵積みのプロジェクトなんて知ったら余計に混乱させそうで
もし手柄を上げることが出来るのなら彼の役に立てるのだろうか
私が工場に籍を置くことが決まった時みたいに喜んでくれるのだろうか
考えている間に繋がって彼の声が聞こえてくる
どこにいるのとか怪我の心配とかちゃんと食べているのかとか
トピックは私のことばかりで彼の人柄の根幹が変わっていなくて
人恋しいなんて私らしくないと一皮むけたフリップをクリップ
突き飛ばしてしまった機動捜査隊の人に向けたごめんなさいと
クスリの取引の時間と場所だけ告げて受話器を置いた

指示を受けるだけではあるけれども誰が味方か敵かも分からないということはなくて
売り付けと味見が一体化して地鳴りが猛威を振るう
明確に定義されていなくて曖昧なのにあることもないことも
基準が無いから証明も出来ないからクスリの現物だけじゃなくて証拠がいる
だから証拠のメモリがある事務所代わりのビルに潜り込む
行為中のこととはいえ奴等はそそっかしく喋り過ぎた
おっとっとと鍵さえ壊して忍び込めばクタクタでも見つけ出せた
けれど見つけ出すのに夢中になっていて階段を上がってくる足音に気付かなかった

持ち出そうとしたら扉の前で奴と鉢合わせて揉み合いになる
けれどもこのミソであるメモリは絶対に離さないと力を入れていたから
一瞬の間隙で階段から転げ落ちスプリングのように跳ね出された
頭が揺れて視界も歪んでいるけれども届けなければと
その一心で動こうとすれば奴に踏み付けられて動けない
丸くなってメモリを庇うけれどいつまでもつか分からない
彼はちゃんと辿り着けただろうか手柄をあげられただろうか
そんなことばかりが頭を過ってそろそろ意識が手放されそうになった

そこに駆け付けて奴を捕まえたのは機動捜査隊だった
彼と彼の上司と彼の同僚と生活安全課の警察官以外は
未だに信用出来ないというか話せないというか分からないから
このメモリを奪われる訳にはいかないから這ってでもと距離を取る
怯えるように逃げる私にどうしたらいいのか分からないと
オロオロするのはあの時私が振り払った人
自分達は彼や生活安全課の警察官の知り合いだと言う
私との共通点を見付けて会話の糸口を作ろうとする
知っている事を話してくれと言葉にしない出来ない声を聞いてくれて
誰にも話したくない話せないようなことを話せたけれども
目の前のパラメーターはピンとはこないバロメーター

機動捜査隊の一人が何やら私に電話を向ける
スピーカーから聞こえるのは生活安全課の警察官の声
彼は私の情報通りに仲間と共に取引ごと逮捕して評判も上々
元売りも仲卸も含めてスポーツマンシップに則り全員取調べ中
加えて目の前のその人達は信用出来る人達だという
彼は警察は私の情報を信じたのだから自分達のことも信じて欲しいと言う
カウンセリングのような達筆なリズムチェック
両の手で握り締めていたメモリを震えながらも渡せば
拍動は浮き沈み呼吸は落ち着くように浅くなっていく
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