掌編小説集

672.終わりにしたいのなら忘れてあげる

捜査のために近付いて仲良くなった少し気弱い彼女がクロであると判明
彼女に自分の本当の身分と近付いた理由の起源が知られてしまうことに
仕事とはいえ世の中のためとはいえ感じてしまう活性化したこの悲しさ
ターンテーブルがスクランブルされて煮え切らない心持ちのせいなのか

特殊簡易公衆電話やルーレット式おみくじ器なんかの小物が置いてある
レトロ調を売りとしている店にガサ入れしても悪びれる様子もない奴等
レコードがかかった店内で御当地の書付を入れ込んだプチパースを探す

ふと視線を感じそちらに向けば彼女と目が合ったけれど逸らしてしまう
この期に及んで後悔先に立たずであるならこの仕事に向いていないのか
答えの出ている自問自答に落ち着きなさいと言う捜査員の声が重なって
その方向へと振り向けば彼女がカッターナイフの刃先を捜査員の一人に
向けながら持っているその手は大きく震えていて私が全部やったのだと
奴等の罪を全て被るようなことを言ってちんちくりんな注目を集めれば
だってさ刑事さん俺達は全く悪くないさあいつが全部悪いんだからさと
奴等はニヤニヤと笑いながら自供した彼女に全てを押し付けようとする

そんな逃げ得などはさせないと思っているのは自分だけではないけれど
しかし彼女の興奮は収まらないからとりあえず彼女の言葉を肯定すれば
彼女はホッとした様子を見せて手の震えも止まり緊迫した空気も和らぎ
カッターナイフをこちらへと渡してもらえるように手を伸ばそうとした
その瞬間に彼女の手が動いた先には会心の一撃でも痛恨の一撃でもない
今まで負った上に付けた傷は隠し通し隠し通したかった言葉のすべてか
彼女はなんの躊躇いもなく自分の白い首をカッターナイフで切り裂いた

ディフューザー薫り慌ただしい中で彼女が流した涙の意味はもう闇の現
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