掌編小説集

679.昨日の敵は今日の友

貴方はくん付けであの人はちゃん付けで

貴方があの人の代わりを演じていて

あの人だと思っている貴方をちゃん付けで私が呼んでいて

貴方の存在は奉安して無かったことになっていて

一瞬で激変したのに一夜漬けにもならない貴方の役作りは

銀幕のスターよりもナイスショットと完璧で脱帽するよ

気付かないまま終わらせられたらどんなに楽だっただろうか

深刻で緊密なデブリを弱腰にもたもた風化させることなく

なんのなんのと舌の根の乾かぬうちに引っ括めて寸断させた悪路

手を取り合い執り行った死に目すら全部思い出したから

舗装されていない山道を杣人の居ない獣道をぼちぼちと進む

しくしくと梢が渡りはためく露払いのバリア

尾根を一望出来る憩いの場の御敷地に灯る龕灯

私を襲ったあの人と私を助けた貴方のダイアリー

あの人が眠る山頂で白いあの人を抱いて胸を詰まらせ

降りしきる雪を羽織って円やかな眠りに就こう
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