【短編】もう少しだけ
「茅乃(カヤノ)ー!」
遠くから聞こえる私を呼ぶ声。
けれど姿は見えない。
クラスの皆が、
「来たよー。茅乃のワンちゃんが♪」
そうクスクスと笑っている。
私は半ば、諦め顔で皆に小さく溜息をついた。
やっと見えた姿は、勿論、真祐。
満面の笑みを見せ、人をすり抜け私の前にやって来た。
「か・や・の♪」
「真祐。恥ずかしいから叫ばないでって言ってるでしょ?」
嬉しそうに私の机の前でしゃがんで覗き込む真祐の目を見ずに言い放った。
嬉しそうな顔から、哀しそうな顔に変わり、
「ごめんね?」
小声で呟く。
実は、この姿が可愛くて仕方ない。
今まで付き合って来た人達に、
こんなに上から言った事なんてないし。
私が合わせてた方だったと思う。
だけど、真祐は私に合わせてくれる。
一緒に居て楽。
それに、真祐と付き合って気づいたけれど、
私には、この関係が合っている気がする。