煙草とキス
「快斗、ひかりさん来てること
どうして教えてくれなかったの!?」
ひかりさんとの電話を切って
あたしはすぐに、快斗のもとへ向かった。
「だってあの人、ライブのこと全部おまえに話しちゃうだろ。たぶん」
そう言って、快斗はライブの日にしかはめない、大きめのゴツいスカルがついた指輪を手に取った。
ボーカルを始めた高校生のときから、ライブでは必ずはめているらしい。
「……午後からひかりさんと
“ガールズトーク”してくるから」
「そこ、強調しすぎ」
堪えるような笑い方をしながら
快斗はギターを2本、
年季のあるエレキギターと、アコースティックギターを持って、玄関の方へ行った。
「今日は早いんだ?」
「ああ。打ち合わせもあるし、午後はリハとか色々しなきゃなんねぇから」
「そっか…。
じゃあ、会いには行かないから。
しかもデカいとこは、分かんないし」
「潜入する前に、警備員に捕まるよ。
今日はスタッフも多いから、来ない方が安全だな」
革のショートブーツを履く快斗の細い背中を見つめながら、あたしは頷いた。