煙草とキス
ギターケースを持った快斗がドアを開けると、暑い風が髪を揺らした。
無造作に整えられた快斗の髪が
ふわりと乱れる。
それでも快斗は、気にしていない様だ。
「じゃあ、夜にな」
「うん。じゃ、頑張って」
ポン、とあたしの頭に手をやり
快斗は耳元に顔を寄せた。
「泣くなよ、ハタチさん」
「……無理」
静かに囁いた快斗は、あたしの返事に笑いながら出て行った。
今日は、7月25日。
待ちに待った、20回目の誕生日。
天気は、晴れ。気温33度。
そして今日は
bitterlips 初のワンマンライブ。
“ROCK-RAY”なんて、
メジャーなバンドもライブをするライブハウスだし
全国的にも有名なライブハウスと、さほど変わりないほど大きなハコだ。
まだ彼らはインディーズで
自主製作のCDとか、所属するインディーズ事務所から出したミニアルバム等がいくつか発表されてるだけ。
ライブはいつも、タイバン形式だ。
でも、そんな彼らが
大きなライブハウスで、2日間もワンマンライブをする。
それは、“メジャーデビュー”という言葉を示唆している気がした───