煙草とキス




とにかくあたしは


どっと溢れそうな涙を、唇を噛んで、堪えようと必死に空を見上げた。





電線が、いくつも張り巡っていて、まるでクモの巣が空を捕えているようだ。





涙でぼやけた、夏の空。



クモの罠に引っ掛かっても、空は青くて雲は白くて、太陽は眩しい。









「そりゃあ……嬉しいよね?
関係ない私だって、嬉しいもん」




やっと涙を引っ込めて、ひかりさんを見つめると



今度はひかりさんが


青い夏空を見上げていた。





「……20歳の誕生日にライブなんて、そうそう無いと思う。
快斗くんに愛されてる証拠だよ。きっと」




「こんな誕生日…」






あたしがそう呟くと


ひかりさんは、あたしの目を見た。







「……初めてです」





あたしの言葉に、ニコッと笑ったひかりさんの目には、涙が浮かんでいる。




そして、そっと涙を拭いたひかりさんの左薬指には



輝く指輪が、なかった───








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