煙草とキス
誕生日の翌日は、毎年雨になる。
「澪ちゃんごめんね~。
私、2時の新幹線で帰るから」
「そうだったんですか…。
あっ、じゃあ見送りさせて下さい!」
真っ暗な朝。
ケータイを肩に挟めて話しながら、マグカップに牛乳を注いだ。
「わざわざありがとね~。
でも、丁度澪ちゃんに話さなきゃいけないことがあったから…。助かるよ」
冷たい牛乳を喉に流しながら
あたしは一瞬、ひかりさんの指輪が脳裏を横切ったことに驚いた。
ひかりさんの口調からして、怪しい。
「……雨で新幹線のダイヤ
乱れないといいですね」
あえて“話さなきゃいけないこと”の内容に触れずに、あたしは流した。
マグカップをシンクに置いてカーテン越しに外を見ると、さっきよりも雨足が強くなっていた。
「それより、澪ちゃんは風邪引かないように気を付けてね?
ライブで汗かいても、外は寒いんだから」
「分かってますよ」
クスクスと笑いながら答えると、電話の向こうのひかりさんも、いつもの調子で笑っていた。