煙草とキス
─── 待ち合わせは、正午。
ピシャピシャと水たまりを踏みながら、あたしは走っていた。
今ではもう、ジーンズの裾が濡れていることなんて気にしない。
……というか、してられない。
何せ、とうに正午を過ぎているのだ。
言い訳をすれば、東京駅までの電車が雨で遅れていたからだ。
けれど、実際は電車を2本も逃していたあたしのせい。
昨日もひかりさんを待たせたのに…。
あたしの時間へのルーズさが
本当に身にしみる。
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
待ち合わせ場所のファミレスに入り、店内をぐるりと見回したけれど
ひかりさんらしき人は
見当たらなかった。
「あ…はい、一人です」
「では、こちらへどうぞ」
店員さんに案内されながら、またキョロキョロと店内を見渡したけれど
やっぱり見つからない。
ちょっとあたしは、ホッとした。