煙草とキス
しかし、今の彼らはものすごく落ち着いていて
いつもはどうでもいいような話をキャピキャピと話す徹平も、今回ばかりは冷静に話を進めていた。
「八木って人がさ、今度タイバンを見せて欲しいって言うから、この前やったんだ」
徹平はそう言って
汗をかいたグラスを持ち上げる。
でも、中のチューハイを飲もうとはせず、また話を始めた。
「それで、ライブ後に会って感想とか言われて…。今度は単独を見に行くよ、なんて言って終わり」
「徹平なんてさ、メジャーな会社のヤツに褒められたから、デビューの言葉を待ってたみたいなんだけど」
2本目の煙草を吸い、徹平をからかうように見た龍也は、微笑した。
「だって……」
「まあ、正直俺も思ってたからさ。なんだあのおっさんって思ったわけ」
肩をすくめた徹平の後を、梓がすかさずフォロー。
“いつも”の光景がやっと出て
少し緊張した空気が、変わった気がした。