煙草とキス




「そしたら昨日……来たんだ」







カラン、と快斗のグラスの氷が鳴る。




徹平は少し前屈みになって、声のボリュームを下げると


フッと口元を緩めた。











「前向きに、メジャーの方を考えて頂きたいってね」









あたしが驚いたんだから


彼らが驚かないわけがない。







『前向きに』





この言葉が何を意味しているのか。



あたしはすぐに分かった。






この場でやっとキラキラし始めた彼らの目や笑顔は


すでに“答え”を出しているようにも、あたしには見えた。









「ホントに…ホントだよね?」



「うん、ホント」




「うわ…もう、なんか……
めっちゃくちゃ嬉しい!ありえない…」






足をジタバタさせて、歓喜の声を上げたあたしには



無論……


店内の痛い視線が注がれた。







でも、本当に嬉しいんだ。








もう、嬉し涙を通り越して






笑顔が戻らないよ。









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