煙草とキス
「デートって……どこ行くの?」
世那には『行けるの?』とでも言いたいくらいだ。
あたしが知る世那の人生には
中3のときの彼女1人としか、恋愛がなかったのだから。
「ベタに映画とか」
世那は真顔でそう言うと
何度か唸りながら首を捻っていた。
そのときだった。
店長の大きな「いらっしゃいませ」が聞こえて、それが他の店員にも連鎖した。
当然、あたしと世那は
入口の方に目をやる。
「あっ、来た」
世那の声に、あたしは少し緊張した。
でも、世那の彼女が見えた途端
あたしの緊張の糸は
ぷっつりと切れてしまっていた。