煙草とキス
それにしても、自分の記憶が確かであったことが奇跡のようだ。
東京で生活するようになって
たくさんの人と出会った。
ライブハウスにばかり足を運んでいたあたしは、数えきれないほどのスタッフと
10本の指だけじゃ足りないほどのバンドに出会った。
人の名前……
ましてやライブハウスのスタッフの名前なんて、いちいち覚えていられない。
だけど、彼女の名前は覚えていた。
メイに会わせてくれたスタッフだ。
忘れるわけなかった。
───「2人が顔見知りだとはねぇ」
世那は、笑顔を振り撒く彼女を何度も目を丸くして見ていた。
そんな世那に、あたしは言い返す。
「まさか2人が付き合うなんて」
「ラブハプニングだよ」
「……意味分かんない」
相変わらず、な世那。
そんなあたしたちのやりとりを、美季ちゃんはクスクスと笑っている。