煙草とキス





「あっ、もしもし?」


「おう。バイト帰り?」



「そうだよ。電車に乗るとこ」






駅の改札を通ると


快斗と電話が繋がった。






「なんだ。言えば迎えに行ったのに」


「いいよ、別に」






どうせ今日も家に帰らないんでしょ。





そう言おうとしたけど


駅の雑音がうるさくて、言うタイミングを逃してしまった。







それに。



快斗の声が、普段と違う。


明らかに1トーンは上がっている。








それって、“前向き”の結果?










「……ねぇ、今日は帰ってくる?」





駅のホームは、朝の通勤ラッシュ時とまではいかないけれど


スーツ姿の人やらで、かなりごったがえしていた。




だから、どんどん電話に


ノイズが邪魔してくる。






もう少し遅い電車にすればよかった、とは思ったけれど……



早く帰りたい気持ちの方が勝った。






< 243 / 280 >

この作品をシェア

pagetop