煙草とキス
「あっ、もしもし?」
「おう。バイト帰り?」
「そうだよ。電車に乗るとこ」
駅の改札を通ると
快斗と電話が繋がった。
「なんだ。言えば迎えに行ったのに」
「いいよ、別に」
どうせ今日も家に帰らないんでしょ。
そう言おうとしたけど
駅の雑音がうるさくて、言うタイミングを逃してしまった。
それに。
快斗の声が、普段と違う。
明らかに1トーンは上がっている。
それって、“前向き”の結果?
「……ねぇ、今日は帰ってくる?」
駅のホームは、朝の通勤ラッシュ時とまではいかないけれど
スーツ姿の人やらで、かなりごったがえしていた。
だから、どんどん電話に
ノイズが邪魔してくる。
もう少し遅い電車にすればよかった、とは思ったけれど……
早く帰りたい気持ちの方が勝った。