煙草とキス
なんとか、出待ちファンのいない所からライブハウスを抜け出すと
向こうから、歓声が聴こえた。
「ハハッ、うるせーな」
ライブハウスを振り向きながら笑った快斗は、あたしの腕から手を離した。
「なぁ、メイって奴どうだった?」
「あぁ、メイ?」
雨はすっかり止んで
生温い風が、ふわりと頬を撫でる。
「あの日のメイとは、別人だった。
小柄なのに…存在感がものすごくあって、ビックリしちゃったよ」
「へえ?すごいんだ、メイって」
「ファンも大盛り上がりで、抜け出すのも大変だった」
そう呟くと、快斗はあたしを見た。
「じゃあ、俺、招待しといて良かったな。
絶対ギリギリに来ると思ってたから」
そう言った快斗に
あたしは目を丸くして見せた。
「すっごく助かった!当日券完売してて、困ってたら先輩が気付いてくれて。
ギリギリで入らせてもらえたんだよね」
「澪、俺に感謝しろよ?」
「うん、感謝する」
あたしが笑顔でそう言うと
快斗は、歩く足を止めて、あたしの唇にキスをした。