煙草とキス
《 着信:実家 》
その文字を見た瞬間
あたしの親指は、通話ボタンに向かうはずもなく………
ずいぶん、躊躇った。
けれど、あたしの脳と体は何を思ったか
ゆっくり、通話ボタンを押していた。
「澪か?」
まだあたしの手の中にあるケータイ。
スピーカーからは、あたしの名を呼ぶ声が聴こえた。
「……なに…?」
ゆっくり耳にケータイを当て、あたしは玄関近くまで遠退いた。
なんとなく、快斗の前で電話するのが嫌だったから。
「一体、おまえ結に何を吹き込んだんだ?
父さんは、結が一度、おまえと電話で話したことくらいは把握しているんだぞ」
すると突然、電話の向こうから聞こえる父の声が、大きくなった。
明らかに………声色が苛立っている。
「……電話をかけてきたのは、結の方。
あたしは何も、結に言ってない」
壁に寄りかかって、あたしは腕を組み、口調を強めて言った。
早く………電話を切りたい。
声も聞きたくない。