煙草とキス
それでも、何故か電話を切ることもできなくて
ケータイを持つ手が、冷たくなりながら震えていた。
「おまえはもう、野たれ死んだのかと思っていたよ。何の目標も掲げないで、東京に行ったからな」
あたしは今まで
何度、親から耳を疑うような言葉を吐かれただろう。
電話の向こうから聴こえる、父の皮肉るような声が
本当に、耳障りだ。
「………何が言いたいの?」
「なんだ、まだとぼけたフリか」
そしてまた、父の苛立った声が耳に障る。
「結が突然、『澪になりたい』なんて言い出して、高校をサボり始めたんだ。
先生からも、高校に呼び出されてなぁ。
『最近結がおかしい』と言われたんだ」
あたしは、ふと思い出した。
この前急にかかって来た、結からの電話。
『澪みたいになりたい』
そう呟いた結に、あたしは冷たい言葉を放った。
でも、結の言っている意味が分からない。
結はあたしと違って
両親から無償の愛を、たくさん受けて生活している。
皮肉られることもなく
いつも、良い子良い子って頭を撫でられ、褒めちぎられて。
それなのに、
あたしを羨ましい目で見ているって?
「それがあたしのせいって言いたいの?
待ってよ、そんな馬鹿げた話……」
たっぷり空気を吸い込んで
たっぷり息を吐き出した。