煙草とキス
「………あれ?
澪は、信じてないんじゃないっけ?」
沸かしたお湯を、ティーカップに注いでいると
突然背後から声をかけられて、背筋がピンと伸びた。
「び、びっくりした…。
ごめん快斗。 起こしちゃった?」
「んー、起こされた」
あくびをしながら、ダルそうに言われた。
上半身裸で、髪は寝癖だらけ。
タオルを持った快斗は、シャワーを浴びる気満々のようだ。
「俺、梓から呼び出しくらったからさ、ちょっと行ってくる」
ポケットから取り出したケータイを見ながら、快斗はそう言った。
「………そう。分かった」
「ごめん、ずっと付いててやれなくて」
小さく呟いた快斗の声が聞こえたら
あたしの唇は
もう、快斗の唇と重なっていた。
「ううん……。紅茶、ありがとう」
あたしがそう言うと
快斗は何も言わずに、あたしの頭をクシャクシャと撫でた。
中2の頃、星占いが流行して
あたしはますます、世間が嫌いになった。
星占いにすがる人。
そして、それを利用する人。
何もかもが、馬鹿馬鹿しく思えた。
だけど、今夜だけは
馬鹿馬鹿しいことを、信じてみよう。
そう思って口にした紅茶は
矛盾してるかもしれないけど
すごく美味しく感じて
その味は、なんだか落ち着いていた。