煙草とキス
「澪、泥棒に入られないようにね!」
まだ雨が降り止まない中、
わざわざ梓は、車で家に来てくれた。
「大丈夫、ウチには盗られるものなんて何もないから」
梓に笑顔でそう言うと、隣にいた快斗が目を丸くした。
「待て待て!俺のヴィンテージギターは我が家の家宝だろっ」
「家宝~? 快斗の宝でしょ」
“家宝”だなんて、大袈裟な。
そう笑うと、梓もクスクスと笑った。
「じゃあ、夫連れてくね~」
「妻、バイバイ」
ふざける梓と快斗にため息をつきながらも、あたしは笑顔を返した。
「夫でも妻でもないしっ」
「いや、おまえらは夫婦同然だよ」
そんな梓の言葉を、あたしは笑って軽く流したけど
本当は、すごく嬉しかった。
「じゃあね」
互いにそう言って
バタン、とドアが閉まると、一気に家中が静かになった。
「はぁ………」
急に全身の力が抜けて、あたしはヨロヨロとベッドの上に倒れ込んだ。
まだ、ほんのりと快斗の温もりが残ってて
一気に、何とも言えない感情が押し寄せてくる。
父の言葉や、快斗の腕の温かさもフラッシュバックしてきて
どっと涙が、溢れそうになった。
そして、涙がこぼれ落ちようとした
その時…………………