煙草とキス






「澪、泥棒に入られないようにね!」





まだ雨が降り止まない中、



わざわざ梓は、車で家に来てくれた。






「大丈夫、ウチには盗られるものなんて何もないから」




梓に笑顔でそう言うと、隣にいた快斗が目を丸くした。






「待て待て!俺のヴィンテージギターは我が家の家宝だろっ」




「家宝~? 快斗の宝でしょ」






“家宝”だなんて、大袈裟な。




そう笑うと、梓もクスクスと笑った。







「じゃあ、夫連れてくね~」




「妻、バイバイ」






ふざける梓と快斗にため息をつきながらも、あたしは笑顔を返した。





「夫でも妻でもないしっ」



「いや、おまえらは夫婦同然だよ」





そんな梓の言葉を、あたしは笑って軽く流したけど




本当は、すごく嬉しかった。






「じゃあね」





互いにそう言って




バタン、とドアが閉まると、一気に家中が静かになった。








「はぁ………」




急に全身の力が抜けて、あたしはヨロヨロとベッドの上に倒れ込んだ。





まだ、ほんのりと快斗の温もりが残ってて




一気に、何とも言えない感情が押し寄せてくる。







父の言葉や、快斗の腕の温かさもフラッシュバックしてきて




どっと涙が、溢れそうになった。






そして、涙がこぼれ落ちようとした




その時…………………









< 77 / 280 >

この作品をシェア

pagetop