煙草とキス




数々のライブで、



その名を着々と広げていたbitter。






そのリーダーでもある龍也を見て





ファンとしての憧れとか、


そんなものじゃない………









“恋心”を覚えていたのだ。









だが………




ひかりさんは、あたしと仲良くなっていくにつれて



あたしと龍也との過去を、知らないわけにはいかなかった。









「ひかりさん、『彼の過去も知っちゃったから近付けない』って言ってた」




「…………過去」




「その過去、椎名さんが関係しているんでしょ? それできっと………」






目の前で思い切り息を吸った彼女は



唇を噛むあたしの気持ちを察したのか、口をつぐんだ。






「……とにかく、ひかりさんはそのバンドの彼にかなり惚れていたみたいだよ?」



彼女は、コホンと咳払いをする。





「椎名さんに相談しなかったのは、驚きなんだけどね」





そう言って口元を緩めた彼女は



また、淡々と話した。






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