居 候 天 使
「あーはいはい、羽ね、羽。あるに決まってんだろ」
ほら、とシキが自慢げに見せてきた真っ白い羽。
天使の羽と呼ぶのにふさわしい綺麗な羽だった。
ただ、ひとつ、不可解な点があるとするならば――…
「どこで買ってきたんだ、それ」
その羽の中央から、輪を作るようにして伸びている2本の紐。
どうみても天然じゃない。人工だ。
「買ってきたってなんだよ、さっきからマジで意味分かんね、お前。どっからどう見ても天使だろうが、なぁコハク」
シキは2本の紐にそれぞれ腕を通し、背負うようにその羽を着用している。
コハクも自分の羽を持っていたらしく、いつの間にかシキと同じような羽をしょっていた。
まぁ、コハクの方はなかなか様になっていて、天使に見えないこともないけど、シキの方はただの悪ふざけにしか見えない。
「わたしも、シキも、正真正銘天使」
コハクの、透明度の高いこの声で言われてしまえば、すべて真実のような気がしてくる。
彼女はビジュアル的には天使のイメージとぴったりだ。
でも、だからといって、こんな欠陥だらけの天使なんて、聞いたことがない。
「この羽は、神様がくれたの」
「か、神様!?」
「そうだ。天使にはもともと羽なんかねぇんだ。なのに、以前天界で羽ブームが来たときに、すっかり羽のイメージが人間達の間で広まっちまって…。こっちはただのファッション感覚だっつのによ。あれと一緒、ほら、ちょっと前に流行ってた、…アレ、なんだったっけ。あのよれよれの靴下」
「ルーズソックス」
「そう、ルーズソックス!ルーズソックスみたいなもんよ、羽なんて。今じゃ全然流行んない」
マジかよ。
天使にとって羽ってそんなもんだったの?
ルーズソックスと同じ?
嘘だろ。
猛烈にショックだ。