居 候 天 使


「あーはいはい、羽ね、羽。あるに決まってんだろ」


ほら、とシキが自慢げに見せてきた真っ白い羽。

天使の羽と呼ぶのにふさわしい綺麗な羽だった。

ただ、ひとつ、不可解な点があるとするならば――…


「どこで買ってきたんだ、それ」


その羽の中央から、輪を作るようにして伸びている2本の紐。

どうみても天然じゃない。人工だ。



「買ってきたってなんだよ、さっきからマジで意味分かんね、お前。どっからどう見ても天使だろうが、なぁコハク」


シキは2本の紐にそれぞれ腕を通し、背負うようにその羽を着用している。

コハクも自分の羽を持っていたらしく、いつの間にかシキと同じような羽をしょっていた。

まぁ、コハクの方はなかなか様になっていて、天使に見えないこともないけど、シキの方はただの悪ふざけにしか見えない。



「わたしも、シキも、正真正銘天使」


コハクの、透明度の高いこの声で言われてしまえば、すべて真実のような気がしてくる。


彼女はビジュアル的には天使のイメージとぴったりだ。

でも、だからといって、こんな欠陥だらけの天使なんて、聞いたことがない。


「この羽は、神様がくれたの」

「か、神様!?」

「そうだ。天使にはもともと羽なんかねぇんだ。なのに、以前天界で羽ブームが来たときに、すっかり羽のイメージが人間達の間で広まっちまって…。こっちはただのファッション感覚だっつのによ。あれと一緒、ほら、ちょっと前に流行ってた、…アレ、なんだったっけ。あのよれよれの靴下」

「ルーズソックス」

「そう、ルーズソックス!ルーズソックスみたいなもんよ、羽なんて。今じゃ全然流行んない」


マジかよ。

天使にとって羽ってそんなもんだったの?

ルーズソックスと同じ?

嘘だろ。

猛烈にショックだ。


< 6 / 10 >

この作品をシェア

pagetop