優しい君に恋をして【完】
●優しい人
通学電車
朝というのは、どうしてこうも時間が経つのが早いのだろう。
同じ一分でも、電子レンジの前で待つ一分は長いのに、
登校前の一分はあっという間。
「あと5分早く起きればいいのよ……まったく……
高校初日に遅刻なんてしたら、先生に目をつけられちゃうわよ」
「わかってる……わかってるって!」
お母さんのその言葉、これで3回目だよと、心の中で突っ込みながら、
玄関脇の、姿見で全身をチェックした。
真新しいベージュのジャケットに腕を通し、
深緑のタータンチェックのスカートの後ろの折り目を直して、
スカートと同じ色のリボンの向きをまっすぐにした。
「いってきますっ」
玄関から飛び出そうとした時、
「帰りにちゃんとピアノのレッスンに行ってよ。
桜木先生そろそろ辞めちゃうかもしれないから……」
< 1 / 319 >