優しい君に恋をして【完】
駅から家まで、歩くと20分かかる。
駅前通りをこのまままっすぐ行けば、中学の方へ行くけど、
家へは途中で曲がらなくてはいけない。
そこで気づいた。
星野先生が待っている。
私は家の方向へ曲がらないで、
そのまま真っ直ぐ歩いた。
隣から優の腕を掴むと、
優がこっちを向いた。
「私も中学まで行くね」
私の口を読むと優は立ち止まり、
自転車を体に立てかけハンドルを離した。
《家まで送って行くよ》
私はその言葉に首を振った。
《中学の先生に 手話を 習いに行ってたの
だから 先生に会いに行く》
優は優しく微笑んだ。
《俺のために 手話を 習ってくれたの?》
少し首を傾げ、優しい表情で私の答えを待つ優に、
私は、小さく頷いた。
《ありがとう》
優の言葉に、私はぶんぶんと首を大きく振った。
すると、優の指が伸びてきて、
私の目にかかった前髪を、
指先でよけてくれた。
「ありがとう」
今度は私がお礼を言うと、
優はぺこっと頭を下げて、
またハンドルを持ち、歩き出した。