優しい君に恋をして【完】
優は少し首を傾げてから小さく頷いて、
私が「こっち」と手招きすると、自転車を引いて歩き出した。
自転車置き場に自転車を停めると、
一緒に校舎に入り、保健室へと向かった。
自分の中学の廊下を、優が歩いてることが、
なんだか不思議な感じがした。
保健室のドアは開いていて、そこからひょこっと顔を出すと、
先生が机に向かって座っているのが見えた。
「先生」
そう呼ぶと、先生はメガネの縁の上から私を見た。
「あれ、もう遅いから今日は来ないかと思ったよ」
先生はメガネを外して、書類を引き出しにしまった。
「あのね、先生......私やっと気持ち伝えた」
「そっか!!頑張ったじゃん!!それで......どうだった?」
ドアのところから顔だけ出していた私は、一度顔を引っ込めて、
優の背中を押しながら保健室の中へと入った。
「えっ?えっ?」
先生はびっくりして椅子から立ち上がった。
私は、先生と優の間に立ち、
《気持ちが伝わりました》と言うと、
先生は《よかったね!!先生も嬉しいよ!おめでとう!!》と、
手話をしながら喜んでくれた。
《じゃあ、お祝いに》と、先生は引き出しを開けて、
一枚の紙を取り出し、優に差し出した。
優はぺこっと頭を下げてその紙を受け取った。
優はその紙をじっと見つめると、
顔を真っ赤にして、自分の髪をくしゃくしゃっとした。