優しい君に恋をして【完】
何がおきたのか、しばらくよくわからなかった。
ただ、ドキドキドキドキとして、
今までにないくらい、胸が締め付けられる感覚がした。
優はずっと下を向いてしまって、
顔に前髪がかかって、その表情がよく見えなかった。
唇に残る、優の唇の感触。
キス......されたんだ......
わぁ…………
飛び跳ねたいぐらい嬉しいけど、
ここで飛び跳ねて喜んだら、優に引かれてしまう。
嬉しい気持ちが心の中で爆発しちゃいそうなのを抑えていたら、
バスが近付いてきて、目の前で止まった。
優は、私の顔を見ることなく、
バスに乗り込んでしまった。
こっち、向いてほしかったな......
そう思った時、ふとこっちを向いたから、
バスの中の優に向かって
《好き》と手話をした。
すると優は、
人差し指と親指の指先を、
2回くっつけた。
《同じだよ》
そして、バスが動き出し、
薄暗い中に光るバスの車内を、
優が見えなくなるまで見送った。
よかった。
気持ちを伝える事ができて……
優の本当の気持ちを知ることができて……
よかった。
もう、だめかと思ったから……
本当によかった。
これからずっと、気持ちを伝え合っていける。
私の気持ちばかりじゃなくて、
優の気持ちも。
明日も、明後日も、この先ずっと......
私は自転車に乗り、自分の家へとこぎ出した。