優しい君に恋をして【完】
「彼が来たの?」
玄関のところで、お母さんにつかまった。
「うん。夜ご飯ぐらいには帰ってくるから」
「そんな遅くまで......どこに行くの?」
「家......かな」
お母さんは、眉間にシワを寄せた。
「家なんて......ちょっと玄関の中に入ってもらいなさい」
「やだ。だって、絶対にお母さん傷つけるようなこと言うでしょ?
私、彼を傷つけたくない」
お母さんは、はぁとため息をついた。
「そんなこと言わないから。とにかく一度会わせて」
「絶対に、変なこと言わないでよ?」
「わかったから」
私は、お母さんを玄関に残して、ドアを開け外に出た。
そして、門扉の向こうで自転車に乗っている優の元へと駆け寄った。
「おはよう......」
優は自転車に乗ったまま、ペコっと頭をさげ、
私にハンカチ差し出してきた。
そっと受け取り、リュックにしまうと、
私服姿の優を見つめた。
優は、濃い目のグレーのシャツに藍色のカーディガンを羽織って、
デニムのパンツを履いていた。
自転車に乗ってきたせいか、いつもよりも髪がもっとふわふわとしていて、
なんだかいつも以上に可愛く見えた。
優の私服って、こんな感じなんだ......
かっこいいな......
じっと見とれていたら、優はハンドルを持ったまま、
ぐっと下を向いてしまった。