優しい君に恋をして【完】
こっちを向いて欲しくて、
藍色のカーディガンの袖をちょっと引っ張ると、
ほんのり頬を赤くした優が顔を上げた。
優って肌が白いから、赤くなると、すぐわかる......
優はハンドルから手を離すと、指を動かした。
《髪を下ろしているのを 初めて見た》
そっか、いつも結わっているから......
私は毛先を指で触った。
すると、優が手を伸ばしてきて、
私の頬にそっと手をあてた。
いつもは見上げる形の優が、
今日は自転車に乗って、下から覗き込むから、
その少し上目な視線に、ドキッとした。
優の瞳は、黒目が大きくて綺麗だ......
明るい場所で、近くで見つめられてそう思った。
そっと頬から手を離すと、八重歯を見せて可愛く笑って、
その笑顔がたまらなく好きだぁ......って、
あ、そうだ、玄関にお母さんを待たせてたんだ。
優に見とれてしまって忘れてた。
私はゆっくりと口を見せて話し始めた。
《お母さんが 優に会いたいって言ってるの
会ってくれる?》
優は、目をそらして少し考えて、自転車から降り、
門扉の脇に停めた。
《ちゃんと 挨拶するよ》
私をあやすかのように、頭をポンポンと撫でると、
一緒に門の中に入り、私が玄関のドアを開け、
一緒に中に入った。
そこに立っていたお母さんは、
優の顔を見ると、ハッとした顔をして、
なんだか驚いている様子だった。
「名前は?名前はなんていうの?」
お母さんがそう言うと、
優は、携帯を取り出して、
画面を指でこすり、お母さんに見せた。
【成海 優です】
お母さんは、その画面を見た瞬間、
口を押さえて、膝から崩れ落ちた。
「お母さん?」
お母さんは、泣いていた。