優しい君に恋をして【完】

姉と弟




日曜日も、

お昼すぎぐらいに優がうちに来た。


玄関でお母さんを呼んだんだけど、


お母さんは顔を出さなかった。





お母さんなんか無視して、

二人でどこかに出かけようと言っても、

優は首を振って、私を家に戻した。




月曜日も、


帰り家まで送ってくれて、



玄関で、お母さんを呼ぶように言うから、


私は、「会ってあげてよ!!」とお母さんに言ったんだけど、



お母さんはやっぱり会うのを拒否した。







そして火曜日、



その日はピアノのレッスンの日だったから、


今日は休んで優といる......と優に言ったら、



「ピアノが終わるまで 待ってるよ」と、



私の頭を撫でた。






優は「頑張る」と言った日から、


手話を使わずに、声で話すようになった気がする。



今まで優の言葉を、手話と口の動きだけで、


なんとなく理解してきたから、


細かい言葉までは、私が勝手に解釈していた部分があったし、



知らない手話もあったから、

とにかく、読み取るのに必死だった。




それが、声で話してくれることによって、


優の心に浮かんだ言葉、そのまんまが伝わってきて、


手話をする優も好きだけど、


声で話す優も、好きだと思った。




私は今まで通り、


知っている手話と、口を読んでもらう形で、


私の気持ちを優に伝えていた。





駅を出て、ピアノ教室のあるビルまで手を繋いで歩いた。



トントンと隣から優の肩を叩くと、


優は少し首を傾げて、私の顔を見た。



話しかける時に、肩を叩くと、


いつも首を傾げて私を見る。


この時にとても優しい眼差しで見つめてくるから、


その度に、いつもきゅんとしてしまう。




「ピアノの先生に会ったら、びっくりすると思うよ」




「びっくり?どうして?」




「会ってからの、お楽しみ!」





優は私の口元を見ると、ふっと笑って、



また、前を向いた。



優が声で話すようになって、


少し、会話が増えた気がする......



そんなことを思いながら、


ビルの中に入り、エレベーターのボタンを押した。













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