優しい君に恋をして【完】
あすかを家まで送って、
また今日もお母さんを呼んでもらったけど、
会うことはできなかった。
それからバスに乗って家に帰ってくると、
リビングには寄らずに、そのまま階段を上って、
自分の部屋に入り、ベッドに仰向けに寝転がった。
額に腕を乗せると、お姉ちゃんの言葉を思い出した。
【後悔しないように 今を大切に】
その言葉を言われて、ドキっとした。
あすかに出会ってから、ずっと心に引っかかっていることがある。
・・・・・・音を聞きたい・・・・・・
こんなに音を聞きたいと思ったことが、今まで一度もなかった。
俺は、右耳の後ろをそっと触った。
こりこりと、指にあたる、体内に埋め込まれた機械の感触。
俺の右耳の中には、機械が埋め込まれている。
手術をする年齢が、早ければ早いほど、効果のある手術。
俺は、赤ちゃんの頃に、親が勝手に手術を決断して、
ほとんど聴こえなかった耳が、
機械をつければ聴こえるようになった。
中の機械だけでは聴こえない。
外から送信機を耳につけて、埋め込まれた受信機に音を送ることで、
音が聴こえる。
だから、今は送信機をつけていないから、
機械が耳の中に埋め込まれていても、
手術してない状態と同じ、ほとんど聴こえない状態なんだ。