優しい君に恋をして【完】
俺にとって、音はいらないものだった。
たとえ送信機をつけたとしても、
聞こえにくさはあって、
その聞き取りにくい中で、
物心ついた時から、言葉を教え込まれて、
必死に言葉を覚えて。
聞いたまましゃべると、発音が違うと直されて......
なんでしゃべらなくちゃいけないんだろうって。
なんで聴こえるようにならなくちゃいけなかったんだろうって。
なんで聴こえない耳で生まれた俺そのままを、
受け入れてくれなかったんだろうって、
勝手に手術を決めた親を恨んだ時もあった。
中途半端に聴こえるようになって、
中途半端に発音よくしゃべれるようになって、
普通小学校に入れられて、
機械を指差されて、
発音をからかわれて、
もう、音のある世界に、
聴こえる人たちの中で生きていくことに、
疲れていたんだ。