優しい君に恋をして【完】




俺にとって、音はいらないものだった。



たとえ送信機をつけたとしても、


聞こえにくさはあって、



その聞き取りにくい中で、


物心ついた時から、言葉を教え込まれて、


必死に言葉を覚えて。




聞いたまましゃべると、発音が違うと直されて......




なんでしゃべらなくちゃいけないんだろうって。



なんで聴こえるようにならなくちゃいけなかったんだろうって。





なんで聴こえない耳で生まれた俺そのままを、


受け入れてくれなかったんだろうって、



勝手に手術を決めた親を恨んだ時もあった。




中途半端に聴こえるようになって、


中途半端に発音よくしゃべれるようになって、



普通小学校に入れられて、



機械を指差されて、


発音をからかわれて、






もう、音のある世界に、



聴こえる人たちの中で生きていくことに、



疲れていたんだ。




















< 152 / 319 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop