優しい君に恋をして【完】
だから、中学からろう学校に入って、
外の送信機を外した。
これでもう、黙っていれば変な目で見られることもない。
難聴の仲間と手話で会話ができれば、しゃべる必要もない。
半年に一度の、手術した東京の病院に行って機械のチェックと検査をするのも、
一年に一度にして。
去年、中の機械の調子が悪いと言われても、
どうせ送信機をつけていないから、そのままでいいやって思った。
俺のために、
俺が手術を受けた東京の病院で耳鼻科医になってくれたお兄ちゃん。
中の機械が壊れて、送信機をつけても聴こえない耳になってしまったから、
お兄ちゃんに、中の機械を入れ替える再手術をしたほうがいいと、勧められたけど、
拒否した。
再手術をしたところで、送信機を付ける気がないから、
無意味だと思った。
もう、このままずっと音のない世界で生きていくんだって、
決めていたから。
怖かったんだ。
音のある生活に戻るのが、怖かったんだ。
でも今、あすかと出会って俺は、
音を聞きたいと思っている。
あんなに怖かったのに、
もう一度、音を取り戻したいと思っている自分がいる。
あすかの声はどんな声なんだろう
あすかの好きな歌は、どんな音なんだろう
初めて、音を知りたいと思った。