優しい君に恋をして【完】
優を見送り、家の中に入ると、
リビングのドアを開け、
カウンターキッチンの中にいるお母さんの前に立った。
「お母さん、ありがとう」
お母さんは、こっちを見ることなく、
マグカップを洗っていた。
「やっぱり、優の耳のことが引っかかっているの?
それなら、心配ないから。
お母さんも聞いたでしょ?
少しだけ発音が崩れてしまっているだけで、
ちゃんと誰にでも、言葉が通じるぐらいの発音でしゃべれるし、
口を読むのも上手だし、
全然......優は普通だよ。
一緒にいて、普通だよ。
私たちと何も変わらない。
耳が不自由って、そんなに特別かな......
そんなに、誰かに指を差されて生きていかなくちゃいけない存在なのかな......
どうしてそんなことで、付き合うことを反対され......」
「違う!
.......違うの......」
お母さんは私の言葉を遮り、水道の水を止めた。
「耳のことで反対しているんじゃないの。
それに、
あの子が、良い子だってことは、
十分すぎるほど、わかってる......
優しい子だってことは、
苦しいほど......わかっているの」