優しい君に恋をして【完】
私と、その人の間には、
少し空間が空いていて、
ガタンと、電車が揺れるたびに、
その空間が狭くなった。
ずっと会いたかった人が、
憧れていた人が目の前に.....
しかも私を囲むように、
手摺に掴まっていて......
緊張と、恥ずかしいのとで、
私の心臓が、さっきからずっとドクンドクンと、
胸のリボンも動いているんじゃないかと思うぐらい、
ドキドキした。
私は、女子の中では背が高い方だから、
自分よりも背の高い人が目の前に立っていて、
不思議な感覚がした。
チラッと見上げて顔を見ると、
その人は、私の方ではなく、
窓の外の方に目を向けていた。
前髪から続くサイドの髪が、少し顔にかかっていて、
男の人なのに、本当に綺麗な顔をしているから、
チラッと見たはずが、思わずじっと見つめてしまった。
すると、その人が突然こっちを向いたから、
パッと目が合ってしまい、
頬を熱くしながら、下を向いた。
何か、話したい......
聞きたいことは、たくさんあるのに、
緊張で全然言葉が出てこない。
しばらく下を向いていたら、
その人は、ドアの方の手摺から、手を離した。
その時、私の高校のある駅に電車が停まった。
私の降りる駅を、覚えていてくれたんだ......
たまたま、だったのかもしれないけど、
そんなちょっとのことが、
ものすごく嬉しかった。
私は、またその人の顔を見て、
「ありがとうございました」と頭を下げると、
電車から下りた。
そして、またホームから電車の方に振り返ると、
その人もまた、こっちを向いていて.....
せめて、名前だけでも聞こうと思ったんだけど、
周りの目が気になって、やっぱり聞けなくて......
電車のドアが閉まり、
そのまま、見えなくなってしまった。