優しい君に恋をして【完】





私と、その人の間には、

少し空間が空いていて、



ガタンと、電車が揺れるたびに、


その空間が狭くなった。




ずっと会いたかった人が、


憧れていた人が目の前に.....


しかも私を囲むように、


手摺に掴まっていて......



緊張と、恥ずかしいのとで、


私の心臓が、さっきからずっとドクンドクンと、



胸のリボンも動いているんじゃないかと思うぐらい、



ドキドキした。





私は、女子の中では背が高い方だから、


自分よりも背の高い人が目の前に立っていて、


不思議な感覚がした。




チラッと見上げて顔を見ると、


その人は、私の方ではなく、

窓の外の方に目を向けていた。




前髪から続くサイドの髪が、少し顔にかかっていて、


男の人なのに、本当に綺麗な顔をしているから、


チラッと見たはずが、思わずじっと見つめてしまった。





すると、その人が突然こっちを向いたから、


パッと目が合ってしまい、



頬を熱くしながら、下を向いた。





何か、話したい......




聞きたいことは、たくさんあるのに、





緊張で全然言葉が出てこない。





しばらく下を向いていたら、


その人は、ドアの方の手摺から、手を離した。





その時、私の高校のある駅に電車が停まった。




私の降りる駅を、覚えていてくれたんだ......





たまたま、だったのかもしれないけど、



そんなちょっとのことが、



ものすごく嬉しかった。






私は、またその人の顔を見て、



「ありがとうございました」と頭を下げると、



電車から下りた。





そして、またホームから電車の方に振り返ると、




その人もまた、こっちを向いていて.....





せめて、名前だけでも聞こうと思ったんだけど、

周りの目が気になって、やっぱり聞けなくて......




電車のドアが閉まり、



そのまま、見えなくなってしまった。





















< 16 / 319 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop