優しい君に恋をして【完】
私が高校生の頃。
その頃私は、ここよりも少し緑豊かな、
隣の市に住んでいた。
すぐそばの高校に自転車で通い、
帰りに図書館に寄ってから、
図書館の隣の小さな喫茶店でアルバイトをして、
それから家に帰るという毎日を繰り返していた。
家族は、夜の仕事をしている母親と二人きり。
うちは、家計が苦しかった。
図書館で借りる本が唯一の楽しみだった。
本を読んでいる間は、その世界に入り込めて、
現実を忘れられた。
アルバイトの時間まで、いつも図書館で、本を読んでいた。
そんな日々を送っていた高校1年の秋。
いつものように図書館に行き、
いつもの椅子に座って本を読んでいたら、目の前の椅子に誰かが座った。
そんなのいつものことだから、気にもとめなかったんだけど、
ふとその人を見たとき、心臓が高鳴った。
とても素敵な人だった。
うちの高校と図書館を挟んで反対側にある、
県内トップのK高校の制服を着ていて、
分厚い本とノートを広げて、
カリカリとそこに書き込んで勉強をし始めた。
今読んでいる本の主人公が恋をする男の子が、
目の前に現れたような感覚だった。
ふとその人が顔を上げて、
目が合ってしまい、じっと見つめてしまっていたことに気づいた。
ばっと目を伏せて、本の中に目を戻した。
でも、そこから一ページも読み進めることができなかった。
気になりすぎて、気になりすぎて......
本の上からちらっちらっとその人を見ては、
ドキドキして。
あやうくアルバイトの時間に遅れそうになり、
急いで椅子から立ち上がり、
図書館を後にした。