優しい君に恋をして【完】
「あの、彼来ませんでしたか?」
えっ......
「来ませんけど、どうかしたんですか?」
彼女は少し焦っている様子だった。
「図書館前で待ち合わせしていたんだけど、
なかなか来なくて。
もしかしたら、聞き間違いで、
ここで待ち合わせだったのかなって」
「いえ、来ていませんけど」
「じゃあ、もしここに来たら、
図書館前で待っているって伝えてもらってもいいですか?」
私が?
「あ......はい、わかりましたけど」
彼女はまた店から出ていった。
花火大会に行くんだ、成海くんと。
かわいい浴衣を着て.......
それに引き換え、薄汚れた制服を着て、小さな喫茶店で働く私。
私は、トレイをぎゅっと握りしめた。
なんともいえない気持ちになりながらテーブルを拭き、
あと一時間で閉店だ.....と、思った時、
店の扉が開き、成海くんが店に入って来た。
「あの、彼女がここに来なかった?」
同じことを、なんで私に聞くの?
私は、
私は......あなたが好きなのに。
私は、この時、成海くんに絶対についてはいけない、
嘘をついた。
「......来てません」