優しい君に恋をして【完】



成海くんは、「おかしいな」と言いながら、

腕時計を見た。




「喫茶店の前で待ち合わせしたのに、


なかなか来なくて。



もしかして、中にいるのかなと思ったんだけど」




私は黙った。





「しばらく外で待ってみるよ」




そう言ってまた店から出ていった。



このぐらいの嘘は、ついてもいいと思った。



こんな辛い気持ちで、ずっとふたりを見てきたんだもん。



このぐらいやり返したっていいって。




このぐらいやり返したいって。



私は小さな窓から見える成海くんの背中を見ながら、

店の片付けをし始めた。



そのうち、彼女も来るんじゃない?


なんで伝えてくれなかったの?って言われたら、


あ、忘れてたぁってごまかせばいい。


そもそも、待ち合わせの場所を間違えたふたりが悪い。

私のせいじゃない。



その時は、そう軽く簡単に考えていた。



でも、その後、

私のついた嘘が、重大な事件につながっていることに、


気付かされた。




< 181 / 319 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop