優しい君に恋をして【完】
成海くんは、「おかしいな」と言いながら、
腕時計を見た。
「喫茶店の前で待ち合わせしたのに、
なかなか来なくて。
もしかして、中にいるのかなと思ったんだけど」
私は黙った。
「しばらく外で待ってみるよ」
そう言ってまた店から出ていった。
このぐらいの嘘は、ついてもいいと思った。
こんな辛い気持ちで、ずっとふたりを見てきたんだもん。
このぐらいやり返したっていいって。
このぐらいやり返したいって。
私は小さな窓から見える成海くんの背中を見ながら、
店の片付けをし始めた。
そのうち、彼女も来るんじゃない?
なんで伝えてくれなかったの?って言われたら、
あ、忘れてたぁってごまかせばいい。
そもそも、待ち合わせの場所を間違えたふたりが悪い。
私のせいじゃない。
その時は、そう軽く簡単に考えていた。
でも、その後、
私のついた嘘が、重大な事件につながっていることに、
気付かされた。