優しい君に恋をして【完】
唇を噛み締め、ずっと頭を下げ続けた。
しばらく何も、愛さんから言葉がなかった。
「本当に、ごめ......」
「あの、優があすかちゃんとお付き合いしているんですか???」
もう一度謝ろうとしたら、愛さんがそう聞いていた。
「はい、本当にすみません」
下を向いたまま返事をしたら、
「そうだったんですか.....」と言ってから、愛さんは黙ってしまった。
そして、しばらくしてから、
「顔を上げてください」と、愛さんが優しく言ってきて、
私がゆっくりと顔を上げると、
愛さんは優しく微笑んでいた。
「下のお名前、教えてください」
な、名前?
えっと......
「花(はな)と言います」
戸惑いながらそう答えると、「花さん」と愛さんは私の名前を呼んだ。
「高校の頃のことは、忘れてくださいね。
私はもう、とっくに忘れています。
それよりも私は、
優が幼稚園の時、
あすかちゃんにいっぱい優しくしてもらったことを、
花さんに、お礼が言いたかった。
本当に、ありがとうございました。
優が聴こえる子と仲良く遊んでいるのを見たのは、
あすかちゃん以来、ないんです。
本当に優しくて、芯の強い子ですよね、あすかちゃんって。
優が男の子に泣かされると、
あすかちゃんが来て、やり返してくれて。
こんなに優を慕ってくれる子は、
聴こえる子には、いなかった。
だから、卒園してもずっと繋がっていたいと思って、
電話番号を渡したんです」
じゃあ、責めようとしていたわけじゃなかったんだ。
繋がっていたいなんて、そんな......
そんな気持ちで手紙を渡してきたなんて、
思いもしなかった。
「だから、電話をもらえなくて、
やっぱり高校の頃のことを気にされているのかなって、
思ってました。
本当に、気にしないでくださいね。
主人も、気にしてません。
あすかちゃんがこんなに良い子なのは、
きっと、あすかちゃんのご両親が良い人だからなんだって、
私が主人に言ったら、そうだなって言ってましたし、
あのことがあったから、
今の主人がいるんです」
あのことがあったから.......
愛さんは少し水を飲んだ。
「主人はもともと医師になりたかったみたいですけど、
私が入院したことがきっかけで、
主人は産婦人科医になることを決意したみたいですよ」