優しい君に恋をして【完】
門を出ると、優は家の脇に朝から停めてあった自転車のスタンドを、
カタンと外した。
上を見上げると、空は真っ暗で、
小さな街灯の明かりの中、手話をした。
「明日も一緒にいようね」
明後日から会えなくなるから、
明日もいっぱい一緒にいたい......
優は頷くと、自転車にまたがり、
すぐそばに立つ私の頭を片手で撫でた。
「明日は......
俺のうちに来な」
優のうち......
この薄暗さでも、私の顔が赤くなっているのが、
優にバレているだろうか......
コクコクッと思わず何度も頷いてしまい、
優は頭をポンポンと撫でながら、下から顔を覗き込んで笑った。
そして、頭に乗せた手を私の首の後ろにずらして、
自分に引き寄せると、
下から覗き込んだまま、キスをした。
ふっと唇が離れると、至近距離で上目で見つめられて、
小さな街灯の明かりでも、
優の大きな黒目が艶やかに光っているのが見えた。
きゅんとした瞬間、大きな目を細めて、
ちょっと乱暴に私の前髪をくしゃくしゃっとすると、
優はハンドルを持った。
前髪を直している私を見て、
「また明日な......」そう言って、
自転車をこぎ出した。
今日はいっぱいドキドキした。
優を見ると、
優に触れられると、
どうしようもなく、ドキドキする。
優が角を曲がって見えなくなると、
私は前髪から手を離した。