優しい君に恋をして【完】
「えっ、桜木先生辞めちゃうの?いつ?どうして?」
玄関の扉を押さえながらお母さんに聞いた。
「来年の春に結婚して東京に行っちゃうんだって。
だから、どう考えても、今年度中には辞めちゃうと思うのよ。
あすかは?ピアノどうするの?続けるの?……って、もう時間ないから、
とりあえず行きなさい。
あとでよく考えておいて」
そうだ!時間時間!
「いってきます!!」
急いで玄関から飛び出すと、
家の脇から自転車を引っ張り出して、
勢いよく駅へとこぎ出した。
桜木先生辞めちゃうんだ……
東京なんて……遠いな……
先生のおかげで、あんまり好きでもないピアノを、
ここまで続けてきたのに……
友達がピアノが上手で、
自分も弾けるようになりたいって、
10才から始めたピアノ。
その時からずっと桜木先生で、
優しくて、かわいくて、
大好きだったのに……
ちょっとさみしい気持ちになりながら、
自転車をこいでいた。