優しい君に恋をして【完】
玄関を出ると、もう暗くなっていて、
バス停まで手を繋いで歩いた。
何も言えなくて、
顔を見ることもできなくて。
バス停までかな.....と思っていたら、
優も一緒にバスに乗ってくれて......
一番後ろの椅子に座ると、
繋いだ手をぎゅっとしてくれた。
中学校の向かい側のバス停で降り、
家の前に着くと、優は私の手を離して、
肩にかけていた私のバッグを下ろして、
私に渡してきた。
「ありがとう」と手話をして受け取ると、肩にかけ、
ちらっと優を見ると、
優は下を向いてしまった。
そうだ、ミサンガを作らなくちゃ.......
優の手首ってどのくらいの太さだろう......
そう思って、そっと優の手を持つと、
優が顔を上げて、不思議そうに首を傾げた。
私は優の手首を掴んで、次に自分の手首を掴み、
また優の手首を掴んだ。
ごつごつとした、私よりもずっと太い手首。
やっぱ男なんだな......と、思いながら手首から手を離し、
ぎゅっと手を繋いだ。
《何?》と、人差し指を振った優に、
私は笑いながら首を振った。
優はまた首を傾げて、ふっと笑った。
「明日、駅に見送りに行ってもいい?」
手を離したくなくて、ゆっくりと口の動きで伝えると、
優はじっと口元を見て、笑いながら頷いた。
薄暗くて、口の動きが見えにくいのか、
優は少し私に近づいた。
「何時に行けばいい?」
「……10時に中央口改札前」
「うん」
私が頷くと、
優が少し屈んで、キスをしてきた。
「また 明日な」
そう言うと、私の頭を撫でて手を離し、
帰っていった。
優の後ろ姿を見て、
なぜか涙が出た。
どんどんあふれてきて、自分でもなぜかわからなくて、
いつものように角を曲がる前に振り向いた優に、
手を振ることもできなかった。