優しい君に恋をして【完】
優はまた床に置いた大きなバッグを肩にかけた。
私がぎゅっと唇を噛み締めて、泣かないようにしていたら、
優が私に一歩近付いて、私の頬を片手で優しくつまんで引っ張った。
むぎゅっと頬を引っ張られた私の顔を見て、
優が目の前で笑い出した。
その笑顔が、どうしようもなく好きで......
どうかこの笑顔が、消えませんように、
この先ずっと、優が笑っていられますように......と、
心の中で強く願った。
優は引っ張るのをやめて、頬に手をあて、
優しい眼差しで私を見つめた。
私は涙をこらえた。
「手術、頑張ってね......」
「うん」
「かわいい看護師さんがいても、仲良くならないでよ」
「ははっ、ならないよ」
「絶対に?」
「うん ならないよ」
「待ってるからね……
私……待ってるから」
「うん」
優は大きく頷くと、
私の頬から手を離して、頭をポンポンと撫でた。
「じゃあ 行ってくる」
私の頭から手を離すと、
優は改札の方へと歩き出した。
改札を通り、しばらく歩くと、角を曲がる前で優が振り返った。
私は思わず改札に少し近づいて、大きく指を動かした。
《帰ってきたら、どこに行く?》