優しい君に恋をして【完】
優が東京に行ってから一週間が過ぎ、
手術当日になった。
優からは、一度も連絡がなかった。
病院だし仕方ないって気持ちと、
一度ぐらい、どこかでメールしてくれても......って気持ちで、
いつも携帯を眺めては、ため息をついていた。
手術大丈夫かな......
部屋のカレンダーを見つめて、またため息をついた。
不安で心配で、
ひとりでいるのが怖くて。
部屋から出て下のリビングに行くと、
お母さんがキッチンに立っていた。
私はリビングの片隅に置かれたピアノの椅子に座り、
ピアノの蓋を開けた。
そして、優に弾いた曲をゆっくりと弾き始めた。
弾いていると、優の顔を思い出した。
笑っている顔ばかり。
ほんと、優っていっつも笑ってる。
いっつも 笑ってる......
その時ふと、
優の部屋で見た、術後すぐの痛々しい優が過ぎった。
「わあーーーーー!!!!!」
その記憶をかき消すように、大声を出して、両手で顔を覆った。
「あすか!」
お母さんが私の名前を呼んで飛んできて、
椅子に座っていた私を抱きしめた。
お母さんに抱きしめられながら、思いっきり泣いた。
お母さんはずっと私の頭を優しく撫でてくれた。
「私は、優に何もしてあげられないのかなぁ......
優が頑張っている時に、何もしてあげられないのかなぁ......
メスで体を切られるって、どんな痛みなの......
私は、その痛みもわかってあげられない。
音のない世界ってどんななの......
なんで、私は聞こえるの?
私は右も、左も、二つともなんで聞こえるの?
どうして優は二つとも聴こえないの.......
私は二つも聞こえる耳、いらないよ。
ひとつ、優に分けたい。
私の聞こえる耳を、ひとつ優にあげたい......」